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【寄生獣】徹底分析!なぜ面白いのか作劇の面から考えてみるよ!

少年漫画の金字塔、寄生獣。

圧倒的な面白さ、テンポの良さで話が展開し、たったの10巻で完結する作品。

  • 名作らしいから、これから読んでみたい!
  • 読み終わったけど、他人の分析で楽しみたい!

今回はそんな人に魅力が伝わるように解説したいと思います。ネタバレも含みますので、ご了承ください。「概要を知っていたほうが楽しめるぜ」というネタバレが平気な人は予習として良いと思うので参考まで。

では早速始めましょう!

『寄生獣』超簡単なあらすじ

ある日、突然発生した『寄生生物』。人間の脳に入り込み「この種を食い殺せ」という本能のもとに活動を開始していく。主人公・泉新一は寄生生物に襲われるが、ひょんなことから脳ではなく右手に寄生されてしまう。そしてなんと、寄生生物の意思を持った右手「ミギー」が誕生。ミギーと新一の奇妙な共同生活が始まる。

時を同じくして、日本中で寄生された人間が活動を開始。最初は人食いを行っていた寄生生物だったが、徐々に人間社会に順応していく。

一方、人間側も寄生生物による事件を徐々に認知。警察は各地で発生した人食い事件から寄生生物を「パラサイト」と命名して捜査を進める。

はたしてパラサイトとは何なのか? そして人間とは何なのか? パラサイトと人間の道がミギーと新一で交差する。。。

『寄生獣』5つの面白ポイント

ここからは、なぜ面白いのか。どこを観察したらより面白くなるのか説明していきますね!

1、『日常に入り込んだ異物モノ』としての面白さ

寄生獣の面白さは舞台設定にあります。 平凡な高校生の日常生活にある日異物が混入するわけですね。 似たような設定だと「デスノート」がいい例。 天才高校生・夜神月の下に、名前を書くだけで人を殺せる特殊なノートが落ちてくるところから話がスタートしますよね。

世界設定は私たちが住んでいる世界そのもので、変わった部分は「特殊なノートがある」ポイントだけ。しかし、警察が動いたり、世間の評判やネットの情報が錯綜したりと、 興味深い変化がたくさん起こります。これと同じ。

特殊な存在によって平凡な日常がどう変化していくのか描く『仮想群像劇』としての面白さがあるのです。

2,『バディもの』としての面白さ

主人公・泉新一とミギーは相棒のような存在です。古今東西、相棒ものは人気がある構成の代表格といっていいでしょう。

HUNTER×HUNTERのゴンとキルア。あぶない刑事。相棒。ブルース・ブラザーズ。枚挙にいとまがないです。

二人(?)の関係に注目すると一層楽しめますよ。

3,『サスペンス』としての面白さ

ミギーと一体になってしまったことで人間界では異質な存在になってしまった新一。彼は正体を隠しながら生活しなくてはなりません。

しかし、勘の鋭い人間や、警察の捜査によって時にピンチに陥ることも。。。

こういったサスペンスとしてのドキドキも魅力の一端。

4,哲学

人間、パラサイト、双方の立場や考え方がいろいろな方法で語られるのも寄生獣の魅力。

キャラクターがそれぞれの背景を持ち、考察し、悩み、行動する。そこに美学や哲学がしっかりと描写されます。

これを通して寄生獣の大テーマを考えていくのもたのしいですよ!

5,ズバリ『バトル』がシンプルに熱い

難しい面もありますが、寄生獣がヒットした理由はシンプルにカッコいいからでもあります。これがすごい!

難しい事を考えなくても、単純にバトルが熱いんです。ミギーと知恵を絞って戦ったり、軟弱だった新一が徐々に強くなったりと、単純なバトルものとして少年心にガッツリ火をつけてくれる作品なんですよ!

少年漫画にありがちな必殺技を叫んだりする描写がないのもめっちゃクール。無言で敵を倒す。でもやたら高揚感がある。このコンボに厨二心がバクバクになります。

難しい考察をしながら楽しむ大人でも読めて、単純に楽しめる少年でも夢中になれちゃう。そこが寄生獣の凄いところです!

寄生獣の作劇は対比と成長で描く『立体感』

寄生獣はパラサイトと人間の関わりを描く作品。物語中で徐々に「パラサイトとはなにか?」「人間ってなんだ?」と掘り下げられていきます。

それぞれに立体感を持たせるための構成として対比関係が面白いので、紹介しますね。

立体的にテーマを描く人物配置

今回の記事のキモ。寄生獣と言う作品の作劇構成を図にしてみました。

  • 「人間」⇔「パラサイト」
  • 「知性優先」⇔「本能優先」

上記の2軸で分析。「人間」は「優しさ」と言い換えてもいいかもしれません。また同様に、「パラサイト」は「残酷性」と言っても差し支えないでしょう。 ニュアンスをつかんでいただければ幸いです。

「知性優先」「本能優先」は、単純な賢さを示したものではありません。浦上や後藤のように 動物的本能を持ちながらも頭がめちゃめちゃ切れるキャラクターも登場します。 そのため、どちらに軸足を置いているかで表を作成しました。なので「優先」としているのです。

もちろん違う意見もあると思いますが、分析の1つとして参考にしてみてください。

ここからはこの配置図を基準に解説を進めていきます。 

立場が変わるトリプル主人公

寄生獣には主人公が3人います。新一、ミギー、そして田村良子です。

そして、この三人は作品内で立ち位置が変動する唯一の存在でもあるんですね。

例えばミギーは序盤こそ冷徹で合理的な『頭のキレるパラサイト』ですが、後半に向かうにつれ『人間味のあるパラサイト』に変貌を遂げていきます。

逆に新一は普通の少年から徐々にパラサイト側へと足を踏み入れる。

そして田村良子は『ミギーよりも頭のいいパラサイト』でありながら『最も人間らしくなったパラサイト』へと変化します。

物語は彼らの変化を粒立てることによって描かれていくんですね。

役割が与えられたキャラクター達

他の登場人物には、それぞれ特有の立ち位置があります。 1人ずつ紹介していきますね。主人公三人との対比関係も参考にどうぞ。

人間代表『村野里美』

もっとも普通の人間として描かれているのが新一のガールフレンド、村野里美。彼女が優しく常識的な人間であってくれるからこそ、新一の変化がわかりやすくなる。

新一の変化にいち早く気が付き、物語のキーになる台詞「きみ泉新一君だよね?」を六回も言ってくれます。どうやら新一が人間っぽくなくなっているぞ、というのが表現される不思議な魅力を持ったセリフです。

パラサイト代表『A・その他モブパラサイト』

田村やミギーのように賢いわけではない、典型的パラサイト。後先考えずに人間を食べる。合理的だが「パワーで勝っているんだから人間食べればいいじゃん」くらいの思考しかない。

彼らがいることでパラサイトの恐ろしさがわかる。さらに対比としてミギーや田村のすごさも浮き彫りにしてくれる便利な存在。市役所での戦い以降は人間に溶け込んで生活している。

人間だけどパラサイトと共鳴できる本能の持ち主『加奈』

人間サイドで唯一パラサイトの脳波をキャッチしたり発信できたりする能力を有する存在。彼女がいることでパラサイトの能力が深堀りされる。また、物語全体で見ると、トラブルを起こすことで話を進めてくれるトリックスター的なポジションも担っている。

個人的には新一の位置がわかってしまう能力を恋の力だと思ってしまうところが秀逸だと思う。

人間だけど完全にパラサイト側の思考と感性『浦上』

加奈は人間的。しかし浦上は完全パラサイト的。性格も思考もパラサイトで身体は人間、くらいの感じ。逆に、浦上には普通の人間がわからない。

浦上が居てくれる役割は非常に大きい。物語後半にもなると、パラサイトの行動も合理的になり、人間のほうが恐ろしいような描写になってくる。少なくとも、読者の感覚はパラサイトに慣れて来ている頃だ。そこに浦上が来ることで「人間のサイコパスシリアルキラー」と「パラサイトの感覚」を橋渡ししてくれる。

もう一度パラサイトの怖さを思い出させてくれる存在なのだ。しかも、その浦上が悲鳴を上げて逃げ出すことで『後藤』の強さが際立ちに際立ちまくる。浦上はかなり重要キャラですね。

パラサイトだけど人間サイド『宇田&ジョー』

加奈や浦上と逆に、パラサイトでありながら人間側にいる存在が宇田。かなり無害なパラサイト。というかいいヤツ。宿主の宇田は涙もろく、ジョーは関西弁。人情キャラって感じですよね。居ると安心します。

ミギーや田村との違いはあまり成長が描かれないこと。あくまで「人間側にいるパラサイト」的なポジションで固定されてる。すべてを打ち明けられる味方が皆無に等しい新一&ミギーの唯一と言っていい仲間。

完全に人間だけどパラサイト支持『広川』

広川は印象的なキャラだ。心も体も人間。だけど「パラサイトは世界に必要だ」って思想を持っている。人間のまま、人間社会で地位を築き、パラサイトを支持する特殊な人間。それが広川。

彼は寄生獣の根幹となるテーマをしっかり語ってくれる。登場時間こそそれほど長くないけれど、めちゃくちゃ重要な仕事をしてくれるキャラ。

広川が投げた哲学に対して、図らずも新一&ミギーが最終的に答えを出していくような形に物語は収束していく。直接主人公と関わらなかったが、思想の対比関係になる重要な存在。

超究極パラサイト『後藤』

寄生獣で強さランキングを作ったら、その他大勢をぶっちぎりで引き離して優勝するのが後藤という男。強すぎます。

寄生獣という作品内ではパラサイトの強さは『動物的強さ』として描かれる部分があり、それを最終形態まで煮詰めた存在といえるでしょう。

言ってみれば、人間から最も遠い生き物。そんな後藤と新一の対比によって「世界と人間」「動物と人間」「環境と人間」みたいな部分を描いていく。

後藤はそこまでセリフが多くないキャラクターで、本当に戦闘メインな立ち回りなんです。たぶんこれは意図的で、広川のように哲学バンバン語ると環境や自然のメタファー存在ではなくなってしまう。だから無口なんじゃないかな、と僕は思います。

固定キャラと成長キャラで描ききった名作

立場を変えながら成長が描かれる三人の主人公。そして、対比となるように配置された役割固定のサブキャラクター達。彼らそれぞれの対比や変化によって寄生獣は面白く語られているのです。

しかも、最初に書いたとおり、バディものやサスペンスやバトル漫画としても楽しめるわけです。さらに言えば、その話がたったの10巻に収まっているという恐ろしさ。

今回紹介した構成や立ち位置に注目するとよりキャラクターが粒立ってきますので、ぜひ意識しながら読んでみてください。面白さが上がりますよ。

間違いない名作ですので、これから読む人も、もう読んだ人も、更に楽しむ一助にしていただければ幸いです。ではまた!

yoshiaki-kobayashi

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yoshiaki-kobayashi

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